白夜行:日文版-第43部分

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瑵猡�ったのだが、先の国会で法的に認知された。だがそのかわりに、派遣労働者の保護を目ざす「労働者派遣事業法」も同時に成立している。
　栅媳伺�たちに近づいていった。いや正確にいうと、一番左端の背中に向かって歩いていった。長い髪を後ろで束ねているのは、キ�‘ボ�‘ドを操作するのに邪魔になるからだと、以前ちょっと立ち話をした時に栅下劋い皮い俊�
　三沢《みさわ》千都留《ちづる》は端末の画面と横に置いた紙を交互に見ながら、めまぐるしいスピ�‘ドでキ�‘を叩いていた。あまりにも速いので、生産ラインの機械が動いているように聞こえた。無論それは、他の三人についてもいえることだった。
「三沢さん」と栅闲堡後幛恧�ら呼びかけた。
　まるで機械のスイッチを切ったように千都留の両手は止まった。ワンテンポ遅れて彼女は栅韦郅Δ蛳颏い俊？Fが�く、レンズの大きい眼鏡を彼女はかけていた。そのレンズの向こうの目は、画面を見続けていたせいか、少し険しくなっていたが、栅晤啢蛘Jめると同時に、ふっと力が抜けたように優しいものに変わった。
「はい」と彼女は答えた。その時にはもう、口元にも笑みが浮かんでいた。乳白色をした肌理《きめ》の細かい肌に、明るいピンクの口紅がよく似合っている。丸顔なので少し幼く見えるが、栅瑜暌护哪晗陇胜坤堡坤趣いΔ长趣狻ⅳ长欷蓼扦魏螝荬胜せ嵩挙�ら彼は探り当てていた。
「渦電流探傷という項目で、これまでにどういう出願があったか眨�べたいんだけど」
「うずでんりゅう？」
「こういう字を書くんだ」栅铣证盲皮い繒�類のタイトルを彼女に見せた。
　千都留は素早くそれをメモした。
「わかりました。検索してみて見つかりましたら、プリントアウトして席までお持ちすればいいですね」歯切れのいい口眨�で彼女はいった。
「悪いね。忙しいのに」
「いえ、これも仕事のうちですから」千都留は微笑んだ。仕事のうち、というのは彼女の口癖だった。あるいはそれは派遣社員の口癖なのかもしれなかったが、他の女性とは殆ど話をしたことがなかったので、本当のところは栅摔悉铯�らなかった。
　栅�席に戻ると、先輩の男性社員が休憩しないかと誘ってきた。この会社では、役員室や来客室などの特殊な場所を除いて、職場で女子社員にお茶くみなどをさせることは固く禁じられている。社員は休憩したくなったら、自動販売機で紙コップに入った飲み物を買うのだ。
「いえ、俺は後でいいです」栅悉饯蜗容吷鐔Tにいった。それで先輩は一人で部屋を出ていった。
　高宮栅蠔｜西電装枺�京本社特許ライセンス部に配属されて三年になる。枺�西電装は、スタ�‘タやプラグなど、自動車に使われている電気部品を製造している会社だ。そして特許ライセンス部では、自社製品に関わる全《すべ》ての工業的権利を管理していた。具体的には、技術者が考案した技術などについて特許出願しようとするのを手助けしたり、他社と特許問睿�で争わねばならない時に対抗措置を整えたりするのだ。
　しばらくすると三沢千都留がプリントアウトされた紙を持ってやってきた。
「これでいいですか」
「助かったよ。ありがとう」栅蠒�類に目を通しながらいった。「三沢さん、もう休憩した？」
「いえ、まだですけど」
「じゃあ、お茶を御馳走《ごちそう》するよ」そういって栅狭ⅳ辽悉�り、出口に向かった。途中でちらりと後ろを見て、千都留がついてくるのを確認した。
　自動販売機は廊下に置いてある。栅膝畅‘ヒ�‘の入った紙コップを手にすると、そこから少し離れた窓際で、立ったまま飲むことにした。千都留も、レモンティ�‘の入ったカップを両手で持ってついてきた。
「いつも大変そうだね。あんなふうにキ�‘ボ�‘ドを叩《たた》きっぱなしで、肩が凝らない？」栅嫌崵い俊�
「肩よりも目が疲れます。一日中、モニタ�‘を見続けてますから」
「ああ、そうか。目が悪くなりそうだね」
「この仕事をするようになってから、視力がずいぶん落ちました。以前は、眼鏡がなくても平気だったんですよ」
「ふうん。一種の職業病だね」
　コンピュ�‘タの前に座っている時以外は、干都留は眼鏡を外している。そうすると、彼女の目がさらに大きいことも明らかになるのだった。
「いろいろな会社を渡り歩くというのは、体力的にも精神的にも疲れるだろうね」
「疲れますね。でも、システム設計で派遣されている男性なんかに比べると、ずっと楽ですよ。そういう人たちは、迹�期が迫れば、残業、徹夜は避けられませんもの。昼間はコンピュ�‘タを派遣先の人が通常業務に使うので、ミスの点検や手直しはどうしても夜になりますから。残業が百七十時間にもなったって人を知ってます」
「それはすごいな」
「システムによっては、プログラムをプリントアウトするだけで二、三時間もかかる場合があるんです。そんな時は、コンピュ�‘タの前で寝袋にくるまって眠るんですって。不思議と、プリンタ�‘の音がやむと目がさめるそうですよ」
「ひどい話だなあ」栅鲜驻蛘瘠盲俊！袱扦狻ⅳ饯畏芝�ャラはいいんじゃないの」
　だが千都留は苦笑していった。
「人件費が安くつくから、派遣社員のニ�‘ズが出てくるんですよ。いってみれば使い捨てライタ�‘みたいなものです」
「そんな悪条件に、よく耐えてるね」
「仕方ないです。食べるためですから」そういって千都留はレモンティ�‘を啜《すす》った。彼女の唇が小さくすぼまるのを、栅悉长盲饯暌娤陇恧筏俊�
「うちの会社はどうなのかな。やっぱり君たちを安く雇ってるのかな」
「枺�西電装さんは、とてもいいほうです。職場も奇麗で、気持ちがいいです」それから千都留は、少し眉《まゆ》を寄せた。「でも、ここで働けるのも、あとわずかなんですよ」
「えっ、そうなの？」
　栅夏谛膜嗓�りとしていた。初耳だった。
「来週中に、決められていた分の仕事は、ほぼ終えられそうなんです。当初の契約でも半年間ということでしたし、最終チェックの仕事をするにしても、たぶん再来週いっぱいで終わりということになると思います」
「へえ……」
　栅稀⒖栅摔胜盲考垾偿氓驻蛭栅辘膜证筏俊：韦�いわねばならないと思ったが、言葉が思いつかなかった。
「今度は、どういう会社に行くことになるのかな」千都留は唇に笑みを浮かべ、窓から外を眺めて呟《つぶや》いた。

［＃ここから７字下げ］
２
［＃ここで字下げ終わり］

　高宮栅俗詣迂湁訖Cのレモンティ�‘を奢ってもらった日の終業後、三沢千都留は同じ派遣会社から来ている上野｜朱美《あけみ》と二人で、青山にあるイタリアンレストランで夕食をとることにした。同い年でどちらも独り暮らしということもあり、しばしばこうして二人で食事をする。
「ようやく枺�西電装ともお別れだね。あのものすごい量の特許を全部整理したのかと思うと、自分たちのことながら感心しちゃうよ」蛸《たこ》とセロリのサラダを口に撙印�白ワインの入ったグラスを傾けて、上野朱美はぶっきらぼうな口眨�でいった。化粧や服装などは女っぽいものにするくせに、しぐさや言葉遣いに粗野なところがあるのは、本人によると下町育ちだかららしい。
「だけど、条件は悪くなかったよね」千都留はいった。「その前の鉄鋼メ�‘カ�‘はひどかったけれど」
「ああ、あそこは論外だよ」朱美は口元を歪《ゆが》めた。「上にいる人間が馬鹿ばっかりだったもんね。派遣社員の使い方を、何もわかってなかった。奴隷か何かだと思って、無茶なことばっかりいいやがった。おまけにギャラがくそ安いときてる」
　千都留は頷《うなず》き、ワインを飲んだ。朱美の話を聞くことは、ストレス解消になる。
「それで、どうするの？」朱美の話が一段落したところで千都留は訊《き》いた。「この後も、仕事を続けるの？」
「うん、まあ、それなんだけど」朱美はズッキ�‘ニのフライにフォ�‘クを突き刺し、もう一方の手で睿д取钉郅�づえ》をついた。「やっぱり、辞めることになりそう」
「あ、そうなんだ」
「あっちが、うるさくってさ」朱美は顔をしかめた。「一応、働いてもかまわないというようなことをいってるんだけど、どうも本心じゃなさそうなんだよね。すれ摺�いになるのは嫌だとかいってんの。それでもう面倒臭くなっちゃったんだ。まあ、向こうは早く子供が欲しいようなことをいってるし、そうなれば当然あたしは働けなくなるわけだし、今辞めても同じことかなと思ってね」
　朱美の話の途中から、千都留は頷き始めていた。
「それがいいと思うよ。どうせ、いつまでも続けられる仕事じゃないもの」
「まあね」朱美はズッキ�‘ニを口にほうりこんだ。
　来月、彼女は結婚することになっている。相手は五歳上のサラリ�‘マンだ。問睿�は、結婚後も共働きをするかどうかだったのだが、どうやら結論が出たようだ。
　二人の前にパスタの皿が撙肖欷皮�た。千都留は海胆《うに》のクリ�‘ムスパゲティ、朱美はペペロンチ�‘ニを注文していた。ニンニクの臭いを恐れてちゃ美味しいものは食べられない、というのが朱美の持論だった。
「千都留はどうするの？　しばらくは、今の仕事をがんばるつもり？」
「う�‘ん、いろいろと迷っているんだけど」フォ�‘クにスパゲティを巻き付けた。だがすぐには口へ撙肖胜�った。「とりあえず、実家に帰ろうかと思ってるの」
「ああ、それもいいかもね」と朱美はいった。
　千都留の実家は札幌だった。枺�京の大学に入ったのがきっかけで上京したが、のんびり帰省したことなど、学生、社会人時代を通じて一度もなかった。
「いつから？」
「わからないけど、たぶん枺�西電装の仕事が終わったら、すぐに帰ることになると思う」
「じゃあ、再来週の土曜か日曜だね」朱美はペペロンチ�‘ニを口に撙螭馈￥饯筏皮饯欷蝻嫟咿zんでからいった。「たしか日曜は、高宮さんの結婚式じゃないかな」
「えっ、ほんと？」
「そうだったと思うよ。この間ほかの人と話をしていて、そんなことを聞いたんだ」
「ふうん……相手は会社の人？」
「摺�うみたい。学生時代から付き合ってた人だってさ」
「ああ、なるほどね」
　千都留はスパゲティを口に入れた。しかし味がさっぱりわからなくなっていた。
「どこの誰《だれ》だか知らないけれど、うまくやったよね。あんないい男、そうそういないよ」
「自分だって結婚直前のくせに何いってるのよ。それとも、じつはああいう人が朱美のタイプなわけ？」わざとおどけて千都留は訊いた。
「タイプっていうか、条件がいいんだよね。あの人、地主の息子なんだよ。知ってた？」
「全然知らない」
　プライベ�‘トなことについて話したことなど殆《ほとん》どなかったから、知る機会がなかった。
「すごいんだよ。まず、家は成城でさあ、その近くに土地をいくつか持ってるらしいの。それからマンションも持ってるって聞いた。お父さんは死んでるらしいんだけど、家賃収入だけで、楽にやっていけるって話。まあ、それだけ悾�まれているんなら、嫁に行くほうとしちゃあ、親父なんか死んでてくれて幸いって感じだよね」
「よく知ってるのねえ」千都留は感心する思いで、友人の顔を眺めた。
「特許ライセンス部の中じゃ、有名な話だよ。だから高宮さんを狙《ねら》ってる女も多かったんだってさ。でも結局、その学生時代からの彼女ってのに誰も勝てなかったわけだね」朱美の口眨�に、どこか痛快そうな響きがこめられているの�